韓国のろうそく革命と参与デモクラシー

李泰鎬(イ・テホ)/ Lee Taeho1(韓国)

参与連帯(PSPD)政策委員会 委員長 / 2016年度ALFPフェロー

韓国の朴槿恵前大統領が有罪となり、懲役24年の判決を受けた。だが、世論を動かしたのは2016年10月から2017年3月にかけて大規模なろうそく集会に参集した韓国市民だった。

ろうそく集会(2016年10月~2017年3月)

街頭で繰り広げられたこの劇的な国民パワーの発揮は「ろうそく革命」と呼ばれるが、そのきっかけとなったのは朴槿恵大統領の職権濫用と汚職だった。前大統領は崔順実(チェ・スンシル)などの側近に国家機密情報を流した。また、巨大複合企業から賄賂を受け取って私腹を肥やしたと疑われるほか、国家権力を動員して政府に批判的な国民を抑圧する職権濫用に走った。

2016年10月29日の夜に最初の徹夜ろうそく集会が行なわれて以来、抗議する人々の数は瞬く間に膨れ上がり、同年12月初旬にはソウル市だけで200万人を超えた。市民からの強まる圧力に屈した国会は、議員300人中234人(78%)の賛成票をもって大統領弾劾動議を可決した。憲法裁判所の最終判決を待つあいだ大衆デモは冬を通じて続き、ついに2017年3月11日、大統領弾劾動議は裁判官の全員一致で支持された。2018年4月6日に大統領は懲役24年を言い渡された。

ろうそく集会参加者(2016年10月~2017年3月)

2017年5月9日の大統領選で野党第一党の候補、文在寅が当選した。これがろうそく革命第一段階の終わりである。

毎週行なわれるろうそく集会を主宰する「朴槿恵退陣緊急国民行動」には、全国70の都市から2,300を超す市民団体が参加した。主宰者側の推計では、この期間中、延べ1,600万人が街頭に出た。

「我々」とは誰か?

この爆発的な市民行動の主役および特徴については慎重に定義しなければならない。あまりに多くの人が参加し、共感したがゆえに、主役を特定するのは難しい。

この緊急国民行動に参加した市民団体は本質的に進歩派あるいは改革派が大半だった。しかしあるアンケート調査では、回答者の32.8%が集会に参加したと答え、また39%という驚くべき数の人が自分は進歩派であると答えた一方、少なからぬ人々が中道派(19.4%)あるいは保守派(17.3%)と自分を定義している。2

一方、世論調査では大統領弾劾支持が70~80%に達した。これは国会の弾劾支持票78%とほぼ一致する数字である。

従来の社会運動組織のメンバーは国会前広場を埋めた人々のほんのわずかな割合しか占めていない。参加者の大半は自分の意志でデモにやってきた人々だ。だが、その人々を烏合の衆と呼ぶことはできない。彼らはソーシャルメディアを介してさまざまなネットワークを作り、広場をその出会いの場に使った。中にはただ自発的に広場に集まった団体もある。ストリート・ミュージシャンのグループが集まり、楽器が弾ける人なら誰でも仲間に加わって、夜中まで皆で歌を歌った。

「全然大丈夫」でない人々

この膨大な人数が物語るのは、政治的志向にかかわらず参加者たちが自分の生活に関わる正義の改革のためにこの場にいなくてはならないと感じたということだ。

国民は朴槿恵/崔順実スキャンダルに激怒した。それが政治制度に欠陥があり、特権と不法行為と不平等まみれだったことを示したからだ。公益は優先されず、機能不全の古い政治が横行し、それが街頭の怒りに油を注いだ。さまざまな不満で満ちていた——極端な経済的格差、少子高齢化、労働者の非正規雇用への格下げや若年層の失業、限界に達した家計の赤字、世界一激烈な入試競争にもかかわらず縮小する労働市場、世界一高い自殺率。こうしたすべてが相まって、街頭のロウソクに火をつけた。

人々をろうそく革命に駆り立てたもう一つの事件がセウォル号事件の悲劇だったことを述べておかねばなるまい。2014年4月16日に起きたこの事故は、過去3年の韓国において最も重要なキーワード3であり、福島の原子力災害が日本に及ぼした影響に匹敵するインパクトを韓国に与えた。

ろうそく集会に集まった人々は問うた——「これは国だろうか?」と。 セウォル号事件のあと、「国は存在しなかった」と嘆いた人々も同じ憤りと危機感をあらわにした。絶望の中に「私にとって国とは何だろう?」という問いが投げかけられた。国の運命と未来へのこの絶望感(若者の言う「ヘル朝鮮」)こそが、街頭に満ち満ちてこだまする問いだった。

ろうそく革命から見えたのは、市民社会のダイナミズムと韓国における参与デモクラシーの伝統である。だが同時にそれは代表民主制が直面する危機も露呈させた。韓国の歴史において重大な局面でいつも起きる爆発的市民蜂起、そして2002年、2004年、2008年、2016年と周期的に起きてきたろうそく集会は、世論に応えることができず、政治的行為による問題解決に失敗してきた韓国政治と密接に関係している。

新たに見いだされたデモクラシー

ろうそく革命で起きた重大な変化は、朴槿恵/崔順実の利益誘導の実態が詳細に明らかになるにつれて、朴正煕時代の開発独裁の夢がついに音をたてて崩れ落ちたということである。これからの政府が今後「国益」や「国家の安全」を理由に個人をスケープゴートにしたり、従属させたりするのはますます難しくなるだろう。

新生韓国を設計しなおす政治的、社会的条件は今や熟した。時代遅れ扱いされてきた「デモクラシー」という言葉は、広場にろうそくを掲げた市民のおかげで再び関心を集めている。もしも参与デモクラシーが市民の積極的関与に根ざしていなければ、国民の生活や福祉は保証されず、特権や不法行為が跋扈するだろうという意識がうまれたのだ。市民は自らの力で世界を変えられるという自信を回復し、自分たちの参与が政治・社会構造の変化につながることを確信した。4

韓国のろうそく革命の経験と認識は、世界各地で起きている新自由主義や逆行現象にもかかわらず、市民による平和的街頭行動が正義と政治改革をもたらすという、全世界の人々に対する教訓である。

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※本記事の内容や意見は著者個人の見解です。

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